リュミエール映画祭とタランティーノ

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10月14日から20日にかけてリヨンで毎年1回行われているリュミエール映画祭にノコノコと赴いてきた。当たり前の如く平日は授業があるので(ちゃんといってる)、金曜日からクロージングの日曜までの3日間、その片鱗にしがみついて参りました。ここではタランティーノがリュミエール賞を獲得したリュミエール映画祭2013のレポートをお届けいたしまする。

金曜日の朝にエクスアンプロヴァンスを出発。今回はお友達からお勧めされたフランスのサービス”Covoiturage(コボアチュラージュ)”を試す。日本にはおそらく存在しないと思うのだけれど(すくなくとも僕は知らない)、検索窓に出発地と行き先と日付を入れれば、それぞれ個人が運転する車が出てくるので、提示されている金額をクレカで支払ったらあとは運転手と連絡を取り合って待ち合わせなどを決め、当日落ち合って一緒に向かいましょうね(ニコニコ)、ってサービスです。運転手側も同乗者が見つかればお金がもらえるし、乗る側も他の交通機関よりも安く目的地に迎えるという双方にメリットがあるのでございます。便利。アメリカやらカナダなどには普通にあるらしい。とにかくそれで今回は15ユーロで耳が遠いオッサンが運転する車に乗って、ほかのふたりの同乗者と共にリヨンへと向かう。エクスからリヨンまで300キロ近く離れているのに15ユーロで行けてしまうなんてお気軽!

リュミエール映画祭は今年で5回目という比較的新しい映画祭なのだけれど、フランスでは大盛り上がりのようすでだれにいっても「あああれね!いいな!」などといい反応が帰ってきます。なんでも各種メディアがけっこう取り上げているのだとか。カンヌ映画祭のような新しい映画がたくさんあって、コンペがあって、買い付け業者が走り回って…という映画祭ではなく、各年のテーマに沿った映画を街中の映画館で上映するという、シネフィルのためのシネフィルによるシネフィルの映画祭。

毎年「リュミエール賞」というのが世界を代表する気鋭の映画監督やら俳優やらに送られるのだけれど、過去の受賞者をみるとクリント・イーストウッド、ミロス・フォアマン、ケン・ローチ、ジェラール・ドパルデューとなっている。大衆性を担保しつつも、きちんと作家性やらもあって…みたいなひとびとが名を連ねている、のかなあ。恥ずかしながらミロス・フォアマン、知らなかったが。『カッコーの巣の上で』の監督と知って納得、観たことないけれど。

そして今年のリュミエール賞はクエンティン・タランティーノに授けられることにもとより決まっていた。タランティーノ!熱狂的なファンが世界中にいる。僕自身にとってもタランティーノは、べつに映画にと興味を持ち始める前、中学生のときとかに金曜ロードショーで『キル・ビル』なんかを観て、タランティーノの名前と彼の映画のなかでは大量に死ぬのくらいは何となく判ってたかも、という身近な方でした。そういうひとたくさんいるんじゃないかなあ。『桐島、部活やめるってよ』でもそういうやり取りあったよねえ。それこそ「大衆性を担保しつつ、作家性もしっかり評価されている現存する監督」という条件で監督の名を順に上げていくとしたら、始めの3人くらいには入るんじゃないでしょうか。(入るよね?)そのタランティーノが映画祭中実際にリヨンへとやってきて、映画祭ではタランティーノの映画はもちろんながら、生粋の映画オタクであるタランティーノが愛し元ネタとして使ってきた映画たちも多数上映される、というのはファンにとっては発狂ものですよね。

というわけでリヨンに到着して、リヨンに滞在している友人のもとに居候させてもらいつつ、プログラムをニヤニヤと眺めながらこの僅かな3日間、どう身を振ろうかなどと考えていた。フランスでパリ、マルセイユに次ぐ第3の都市であるリヨンの映画館を貸し切っていたるところで映画が上映されている映画祭、選択肢が豊満すぎて逆に選べないといううれしい悲鳴。しかし、ここでは詳述は避けますがリヨン、すごい美しい街だった。エクスとマルセイユくらいしか知りませんが、いやあ本当いい街。暮らしたい。

けっきょく最初はイングマール・ベルイマン『野いちご』を観たのですが、タランティーノに平行して監督だとイングマール・ベルイマン、ハル・アシュビー、『地下室のメロディー』のアンリ・ヴェルヌイユの特集が。俳優だとジャン・ポール・ベルモンド(爺さんになった本人も登場!)やら、ピエール・リチャード。他にも無声映画特集があったり、『風立ちぬ』のフランス先行上映に合わせてジブリ特集があったりと、リストアップし始めたらキリがないくらいの充実した内容っぷり。数えたら130本くらいあった。作品によっては開催期間中上映何回もされたりするしねえ。聞いた話ですが、映画祭2日目の昼間に開催されたとあるイベントで、司会が客席のひとびとに現時点で何本映画を観たか尋ねたところ、「6本以上」で手をあげたひとたちが多数いたとか。仕事休んだりして1週間ガッツリ参加しているんですかね…彼らはいったい…。まあでも僕みたいなミーハーに比べて、きちんとしたシネフィルたちはあの名画たちがあれもこれもスクリーンで観られる、ということで鼻血ものなんだろうな。いい文化です。

土曜日にはフランスでは2014年1月頭に全仏で公開が予定されている宮崎駿『風立ちぬ』の限定先行上映があった。タランティーノセレクションのセルジオ・コルブッチ『スペシャリスト』を観に行ったあと、同じ会場で上映されるというので列の様子を覗いてみたんだけど、300人程度のキャパの劇場に500人くらい並んでいて、早々に入場規制。2割くらい日本人だったかな。フランスに長らく滞在している日本人のそのときの同行者は、あと一歩のところで入れずたいへん悔しがっていました。僕は日本で観たのでまた1月に観に行こウッと。

ちなみに、「マカロニ・ウエスタン」で知られるコルブッチの『スペシャリスト』は、タランティーノセレクトと知ってみるとまさしく『ジャンゴ』で面白かった。主人公のキザっぷりに痺れ、アホな演出にニヤニヤが止まらない。タランティーノ好きそうだなあおい!知らなかったので余り昂奮しなかったけれど、出演のフランソア・ファビアンが上映前に登壇。というかマカロニ・ウェスタンって呼んでるの日本くらいらしいね。ほかの国々ではスパゲッティ・ウェスタン。なぜだ!

土曜夜から日曜朝にかけて、モンティ・パイソンの映画のオールナイトの企画があって、満を持してノコノコとリヨンの建築に大きく貢献した20世紀前半の建築家トニー・ガルニエが打ち立てた4000人キャパのホール・トニー・ガルニエに足を運ぶ(マックスだと1万7000人らしい)。モンティ・パイソンをみんなで観るのはさぞかし楽しかろう!とわくわくして赴いたわけですが、なんと着いたらチケットは3週間前に前売りでほぼ売り切れ、わずかに残っていた当日券もすべて捌かれてしまったとのこと…。マジカヨ。4000も席があるのに。モンティ・パイソンにそこまでの集客力があるとは思わなんだ。その夜は仕方なく友人宅に戻り、プロジェクターを掘り出して自主オールナイト。それもそれでなかなか楽しかったですが。

そして金曜日の夜は、タランティーノ映画オールナイトに参加。『レザボア・ドッグス』、『キル・ビル1』、『デス・プルーフ』(寝た)、『ジャッキー・ブラウン』(寝た)。後半2本眠ってろくに憶えていないのが悔やまれますが、前半二本、大勢の外国人たちと一緒に夜中にワッハッハと笑いながら観る『レザボア・ドッグス』、『キル・ビル1』は本当に最高だった!もうこれ以上ないくらいの最高の鑑賞の仕方だ、と胸を張って言える。日本人とでもいいんだけど外人とっていうのがミソです。それだけで3割増の楽しさ。映画祭のイベント感も相まってさらに2割増。

タランティーノナイトに限らず、初日から映画祭に参加しているひとの情報によると普通に劇場の客席にタランティーノがひょっこりと映画を観に来ていたりしたらしいので(彼は4回遭遇したらしい)、どこかで会えるかなあと期待したもののそれまでお目にかかることができず。「つい3分前までそこに居たよ!」と言われたりもしたけれどときすでに遅しでした。このまま帰るわけにはいかねえ、ということで、リヨンでいろいろと目星をつけていて日曜日に回ろうかなあと思っていた展覧会はすべて諦め、タランティーノとティムロスが登壇し、『パルプ・フィクション』が上映されるクロージングセレモニーに足を運ぶ。

こちらもさきほどのホール・トニー・ガルニエ、モンティパイソンと同じように席は3週間前にほぼ売り切れているらしいが、開場前に個人的にチケットを売りにくるひとが一定数いるらしい、ということを耳にし開場1時間前には会場へ赴く。と、すでにチケットを求めるひとびとで列が…。最終的にはもはや列や順番など関係なく、だれがいちばん目立ってチケットを売りにきたひとを確保するかという醜い諍いの様相を呈してたものの、フランス人に負けじと僕の持てる狡猾さを最大限し何とかチケットを購入。20€払った…。

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しかし、会場に入ってビックリ。すげえ。文字通り満席。4000人っていうのは噓じゃないっていうかもっといるんじゃないのこれ、と思うくらいです。まだまだチケット手に入れられなかったひとがたくさんいるっていうのも考えると本当すごい熱狂っぷりだよね。毎年こんな感じなのかしらん。

しばらくして会場の光が消え、大きなスクリーンで大きな音と共にオープニングムービーが始まる。今年の映画祭で上映された映画たちのシーンの断片たちが一挙に流れる。沸き起こる歓声。この1世紀余りの映画史のなかで、ほんとうにいろいろな映画がつくられて、たくさんのひとが観て笑って泣いて感動させられて、こうして連綿と「映画」というカルチャーが引き継がれて来ているのねえと手放しに感動。なによりも感動したのが、映像の最後に流れたタランティーノの次のひとこと。

If you truly love cinema with all your heart and with enough passion you can’t help but make a good movie. You don’t have to go to school. You don’t have to know a lens // — none of that shit’s important. If you just truly love cinema with enough passion — and you really love it, then you can’t help but make a good movie.

(もし心の底から、十分な情熱を以てして映画を本気で愛していたらば、いい映画をつくらずにはいられないんだ。学校に行く必要なんかない、レンズなんかについて知る必要もない——そんなのはどうだっていい。本当に、本当に映画を愛していたらば、いい映画をつくらずにはいられないんだ。)

帰ってから捜したらYouTubeにも映像があった。タランティーノが彼の人生のなかで影響を与えた監督についてひたすら語っているというインタビューなの映像なのだけれど、ジャン=ピエール・メルヴィルについて語っている7:30あたりが該当の部分。ここが流れて、ウェーーーイ!と会場のボルテージが徐々にあがっていく。すでにかなり満足。

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そして壇上にタランティーノを始めとするゲストの面々が登場。タランティーノは同じく壇上にいた200人くらいのボランティアスタッフ全員ときっちりと握手を交わしていて、「まあなんて紳士なの」と隣のオバちゃんたちが絶賛。そのあといろいろありすぎたのであんまり憶えてないけど同じく登壇していたハル・アシュビーに大してタランティーノが「あなたの映画は、あなたは僕にとってお父さんみたいな存在だ。息子はこれからもがんばって映画をつくるよパパ!」会場ドッ!などとタランティーノ節が炸裂。

そしてなによりも感動したのが、「映画祭、どうでしたか」という質問に対してタランティーノが「たくさんのひとがいろんな賞賛の言葉を掛けてくれて、本当にうれしいことばかりだったのだけれど、なによりも、なによりもうれしかったのが、『あなたは紛れもなく映画史に名を刻んだ』という言葉だった」と涙目になりながら語っていたときである。

そうだよねえ。前述のインタビューのように彼自身が誰よりも何よりも「映画」が好きで好きで堪らなくて、本当に心の底から愛していて、映画史に残っている巨匠たちの映画たちをいちファンとしてひたすら若い頃から見続けてきて、映画の世界に憧れて憧れて、そしてついには今日彼自身が「映画史」に残る人物になった、という彼の感慨はどれだけ大きいものか計り知れない。彼の応答をきいて、それを想像せざるをえなかった。泣いた。泣きながら大きな拍手を4000人と共に送った。賞賛を込めて。

ちなみに、何となくインターネットをぶらぶらしていたら彼の映画と元ネタ映画を一挙に集めた映像がありましたのでご紹介します。おもしろい。ここだけでもたくさん紹介されてるけど、どれだけシネフィルだったとしても、タランティーノの元ネタをすべて特定するなんて到底ムリだろうなあ。それくらい引き出しが多いんだろう。だから愛せるんだけど。

そして最後、『パルプ・フィクション』の上映で締めます、となり。タランティーノは4000人の観客にむかって、雄大に、まさに彼らしく語りかける。

「さあ、この感動的ですばらしい映画祭もいよいよ幕引きとなりますが、その前にこの会場のみなさんに最後に一本映画を観てもらおうと思います。僕がかつてつくった、『パルプ・フィクション』という映画を!ひとつききたいのだけど、この中でこの映画をもう観たってひと!?」

全員挙手(笑)「2回観たってひと!?」ほぼ全員。「3回!?」「4回!?」「5回!?」徐々に減っていくも、いまだに多くの人が手を挙げ続けている。そして「ありがとう!それじゃあ、みんなもう一回観る準備はできてるかー!」「「ウオーーーッ!!」」

映画好きでよかった、って本当に思った。みんなで笑いながら観る『パルプ・フィクション』。エンドロール。ということで、シネフィルにさらに映画を好きにさせる素晴らしい映画祭でした、ということが言えると思います。リュミエール映画祭。映画が好きなみなさんはリヨンに10月あたりに行く機会があったらぜひ来年以降も足を運ぶことをお勧めします。歴史はまだあまりないけれど、なんでも運営側は「リュミエール賞」を「映画界のノーベル賞」的な位置づけにしたいらしいですよ。

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ちなみに映画上映前、タランティーノが退出する際に僕もたくさんのひとに揉まれながら彼と握手をしてきました。あんなにひと群がっていてアホらしと思ったもののタランティーノならいいかなと思い直し、僕も慌てて駆け出す。アジア人が僕ひとりだっただけか、目もあったしほかのひとよりちゃんと握手してくれた気がする。何か言おうと思ったがセンキューしか出てこなかった。彼がもしかしたら「ヘイジャパニーズ!次の映画に出てくれ!」なんて言うんじゃないかな、とか期待したがまあ素通りするよね。あはは。

おお、いま行きつけのカフェでこの文章の執筆を終えようとしていたんだけど、素晴らしいタイミングで『パルプ・フィクション』でお馴染みの「サーフ・ライダー」が掛かった。いい夜だ。


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