(一般人のための)カンヌ映画祭サバイバルマニュアル

(一般人のための)カンヌ映画祭サバイバルマニュアル

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    67回カンヌ国際映画祭、一般人だけれどフラリと行ってきた。せっかくカンヌのちかくに住んでいるので、世界一の映画祭に行かないわけがないと思っていたものの、直前まであまり調べずにいたところ「果たして(お金のない)一般人でも参加可能なのかしら」「招待されるようなニンゲンじゃないとまったく映画見れないんじゃないの」という疑問も渦巻く次第。というか、そう思っているひとがフランス人でも非常に多い。

    結論から言えば、”Oui et Non” (Yes and No)。詳しいカンヌ映画祭の説明に関しては、丁寧に説明している記事(『カンヌ国際映画祭開幕。「カンヌ」とはいったい何なのか』)などがあったのでそちらに譲るとして、僕は一般人の参加者目線で、「サバイバル」という怪しい形容詞のついた一般人のためのカンヌ映画祭参加マニュアルを紹介します。

    2014年で67回を数えたカンヌ国際映画祭は、ベルリン映画祭、ヴェネチア映画祭に並んで世界三大映画祭のひとつに数えられる(というふうに数えているのは日本人だけという話をきいたこともあるが、それでもこの3つが世界的にもっとも権威があるという認識でまちがってはいないよう。次点はトロント映画祭など)。その中でもカンヌは、大衆の期待度の高さとコンペティション作品の質という観点からいうと頭一つ抜きん出ていて、「世界最高」と称してもないのでは差し支えないかと思う。

    その世界一の映画祭が開催される南フランスの地中海沿いに位置する小さなカンヌの町に、毎年、5月中旬におよそ10日間にわたって世界中からスターをふくむ映画関係者が押し掛けるわけである。ほかの時期にもいくつかのイベントが開催されているようだけれど、おそらくこの時期が、カンヌという町が1年でもっとも活気を帯びる期間じゃないかな。その「活気」が、カンヌに着いてから最初に実感したことだった。

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    たくさんの人がいる。しかし、けして人を不愉快にさせる人ごみではなく、ある種の高揚をもたらしてくれる、ほがらかな人ごみである。カンヌの町自体は、19世紀前半に国内外の貴族がこの地域に別荘を建てはじめ、次第に高級リゾート地へと発展したらしく、歴史が浅いからか建築などに関してはあまり目は惹かれないが、地中海に面する南仏のバカンス地よろしくこぢんまりと引き締まった上品さがある。

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    何よりも、今年のカンヌの気候はきわめて良好であり、雲一つない快晴がすばらしい舞台を演出していた。近年は開催期間中は天候に恵まれないことが多かったらしいけれど、今年は開催期間中雨に降られることもなく、「南仏の夏」の萌芽を告げる素晴らしい天候。夜間はやはり冷え込むものの、昼間は半袖でいないと暑い暑い。

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    一般人の皆様はカンヌの町に到着したら、まずカンヌ映画祭のメイン会場の目の前に広がる、カンヌの代名詞とも言えるレッドカーペットにゆきましょう。最寄りの駅からも徒歩10分ほど、海沿いの街の中心に位置している。僕がいたときはだれも通らなかったが、運がよければスターたちをお目にかかることができるかもしれない。ただどちらにせよ報道陣の分厚い層が手前にあって、仕切られたその後ろに一般人がアクセス可能な場所があるので、仮にスターが現れて視界に捕捉できたとしてもあまり期待はできない。また、事前に一般公開されているレッドカーペットを下ってくるスターたちのタイムテーブルの類いがあるのかどうかは不明。セキュリティ上ジャーナリストなど関係者のみに知らされてそう。

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    隣にカンヌのOffice de Tourisme(観光局)があって、売店などもありつつ、受付ではカンヌで一般配布されているプログラムなどすべてもらえたり、映画祭に関する質問に答えてくれるので一般人のみなさまは着いたらまず足を運んだらいい。もちろん、映画祭のプログラムはインターネットの公式ウェブサイトでも公開されているので、事前に参照しどう動くか綿密に計画立てておいても悪くない。さて、ここから本題である映画祭のしくみ、および「はたして一般人でも映画が観れるの?」ということについて触れる。

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    まずは各部門の紹介より。

    コンペティション部門 COMPETITION LONGS METRAGES
    カンヌ映画祭の中心となる部門。世界中から寄せられた応募作品のなかから、映画祭事務局によって毎年20数本の長編映画が選出されている。カンヌで授けられる聞き馴染みのある賞(パルムドール(最優秀作品)、グランプリ(審査員特別賞)、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚本賞、審査員賞)は、すべてこのコンペ部門から選出される、映画祭の華となる部門。第67回となる今年は、ゴダール、ケン・ローチ、クローネンバーグなどなど知名度も世界に名だたる巨匠が名を連ねた。日本からも河瀬直美『2つ目の窓』が選出され、話題になっていたのが記憶に新しい。

    ある視点部門 UN CERTAIN REGARD

    1998年に設立されたコンペティション部門には惜しくも漏れたものの、優れた作品を紹介しようと作られた部門。前衛的な作品やアート性の強いものが選ばれる傾向にあるよう。また、新しい才能を発見するための部門としても機能している。名を連ねている監督名を見ても、今年はマチュー・アマルリックなどすぐにピンとくる映画監督もあれば、僕のようなにわか映画好きが聞いたこともないような名前もたくさんあった。ここから名を売る人もたくさんいるんだろう。

    特別招待作品 HORS COMPETITION LONGS METRAGES

    映画祭事務局が特別に選定する作品。世界的に注目されている、いわゆる商業作品などが選ばれる傾向にある。今年は『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』や『ヒックとドラゴン2』など5本(深夜上映3本を含めると8本)。たとえば昨年は『華麗なるギャツビー』が選出されていたりした。

    と、いま3つの公式部門を紹介したけれど、基本的にこれら部門の映画は一般人は観ることができない。映画祭に正式に招待されている証であるバッジがなければ観れない。いったいどれくらいの人数がどのように招待されているのかは不明なものの、映画制作に携わるひとから、流通、メディア関係者など、何らかの映画の業界にコネを持っている必要がある。それが「カンヌ映画祭は映画関係者のためだけの映画祭」としばしば揶揄されるゆえんですね。

    ただ、そこまで狭き門ではないらしく、たとえば僕がカンヌへと向かう車に乗り合ったフランス人は、フランスの映画学校に通っていて、そこの学生もコンペ・ある視点部門の作品をすべてではないが観る権利があると言っていた。さらに、映画祭現場では、プラカードやメモ用紙を掲げて、コンペティション作品の招待券を求めて歩き回っている一般人と思しきひとが何人もいた。どの程度の割合で取り引きが成立するのか、取引に相場があるのかもよくわからないけれど、一般人でも招待券さえなんらかの方法で手にすれば鑑賞可能ということらしい。どうしても観たい作品があればやってみる価値はある。

    そしてじつは、映画祭終了直前後にパリの映画館Gaument Pathéで、”Cannes à Paris”というコンペ部門、ある視点部門への選出作品が3日間にわたって公開されるイベントがあったりする。これはもちろん一般人に開かれていて、プログラムが公開され次第、インターネットで事前に予約が可能。

    僕もカンヌへと赴いた直後にたまたまパリにいたので、公開がまだされていないコンペ作品を3日前に予約して1本観ることができた。かなり大きな劇場だったが、僕が鑑賞した映画はほぼ満席だったので、観に行きたいのなら事前予約がきっと必要。今年は映画祭終了が土曜日で、”Cannes à Paris”は金土日の3日間にわたって開催されていた。すなわち、賞の結果が判明してから映画を観ることも可能だ、ということだ。

    また、カンヌコンペ作品のうち数本は、すでに配給が決まっていたりして、映画祭開催中や直後にフランス全土の映画館で公開される。今年は5月末には18本のうち4本公開されていて、残りのほとんどは今年の夏〜冬にかけて公開が決定しているよう。映画祭から1年間フランスに住めば、すべてのコンペ作品は映画館で観れるといってほぼ間違いないのではなかろうか。日本では配給が決まるまでも一苦労なのに、さすが映画の本場の国だ。

    さて、カンヌ映画祭の期間中、映画祭事務局とは別の組織によって運営され、上映の会場も異なる監督週間(Quinzaine des Realisateurs)、批評家週間(Semaine de la Critique)が並行して開催される。これらが一般のみなさんにはメインコンテンツと言えるだろうか。

    監督週間 QUINZAINE DES REALISATEURS

    フランス映画監督協会が母体となって設立。「イデオロギー、技術、表象的な強制のない自由な選択に基づいて、若いアーティストの作品を発見すると同時に、すでに認められている監督の作品を迎えることが目的」と公式サイトにはあって、作家性が重視される傾向のよう。監督週間が”発見”した巨匠としてジョージ・ルーカス、スコセッシ、ジム・ジャームッシュ、ハネケ、スパイク・リー、ダルデンヌ兄弟、ソフィア・コッポラ、さらには大島渚なんて監督の名前が連なっている。ホドロフスキー『リアリティのダンス』も昨年の監督週間に選出、今年は、日本からは高畑勲『かぐや姫の物語』がプレミア上映されていた。

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    こちらは一般にも開かれていて、海沿いのメイン通り・クロワゼット通りを10分くらい歩くと、チケット売り場が設置されている。チケットはここでしか購入できないよう。監督週間は、チケット予約制ではなく、監督週間上映作品であればすべてに有効なチケットをあらかじめ購入しておいて、各上映会場に開始前に一般の列に並んで先着順で観れるという仕組み。市内にいくつかスクリーンがあるので場所に注意されたい。チケットの値段だが、一般7ユーロ、学生4ユーロ。チケット6枚セットで30ユーロ、事前購入で24ユーロ。公式ではないにせよ、カンヌで1本映画が観れると考えるとだいぶ良心的な価格である。

    僕はフレデリック・ワイズマンの新作『ナショナル・ギャラリー』を観に行った。上映開始40分前くらいに一般の列に行ったらばまだ人はまばら。映画の注目度は去ることながら、会場の立地、平行で開催されているイベントの状況も含めた上映時間などによって異なるとは思うけれど、1時間前に列に並べば一般でも大抵の映画は観ることはできるんじゃないかな。30分前でもたぶん大丈夫だろう。席も指定ではないので、先着順でいい席が埋まっていくだけだ。関係者列が先に案内されるので、もし超人気作品だったら見れないこともあるかもしれない。

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    上映前には、フレデリック・ワイズマン本人の挨拶があった。とくに記載がされていなかったのでよくわからないが、おそらく基本的にすべての上映で監督などの挨拶があるのではないでしょうか。ドキュメンタリーだったので監督のみの登壇で終わったけれど、普通の映画であれば、俳優陣などの登壇もあるのではなかろうか。ワイズマンは僕たちと同じ観客席で上映を観ていたようで、上映後は声をかければ突撃できるように思う。

    批評家週間 SEMAINE DE LA CRITIQUE

    フランス批評家連盟が母体となって設立。出品資格は監督の第1作と第2作のみで、才能ある新進気鋭の監督たちを発掘するために設立。過去の出身者には、ベルトルッチ、ケン・ローチ、レオス・カラックス、ジャック・オディアール、ケヴィン・スミス、フランソワ・オゾン、ギャスパー・ノエ、レベッカ・ズロトヴスキなどと錚々たる名前が並んでいる。グザヴィエ・ドランの1作目も。

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    この批評家週間の映画は、一般人にも公開されているだけでなく、なんと無料である。おなじくクロワゼット通りをさらに歩くと(監督週間受付よりも遠方)批評家週間の受付があって、そこでスタッフに観たい映画と上映時間を伝えて予約し、その場でチケットをもらえれば、あとは会場に赴くのみ。監督週間と同じく席は自由なので、いい席を確保するためには早めに並ぶのが吉であるが、チケットがある以上は必ず観れるということ。しかも、僕が行ったときはスタッフに一覧を見せてもらったのだけれど、ほとんどすべての上映(30分後に迫っている上映さえ)でチケットが残っている状況だった。確かにほとんど未知の新人監督ばかりなので、何を観るかというのはいまいち選びづらいが、下馬評なんかを同時に追いつつ決めてもぜんぜん間に合うのではないかなあ。

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    親切にも上映の際に舞台挨拶があるかどうかがプログラムに記載されていて、今年の場合は朝と夜遅くの上映ではなければすべての会で挨拶があった模様。僕は『GENTE DE BIEN(善良な人)』というコロンビア映画を観たのだけれど、監督はもちろんのこと、プロデューサー、主演俳優はほとんど集結して一緒に挨拶していた。一緒に観に行っていたコロンビア人の友人によると、出演者のひとりは国民的大女優だそうで、上映後も観客と同じ出口から一同出ていって、監督などは熱心に何人かの観客と話していた。出会いの場として機能するカンヌ映画祭。一般人ですらもこうして対面で話せる機会は貴重だ。

    シネマ・ドゥ・ラ・プラージュ CINEMA DE LA PLAGE

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    レッド・カーペットから浜辺沿いを少し歩くと、マセ海岸と呼ばれるビーチがすぐ見える。一般に開放されていて、日中はたくさんのひとが日差しを浴びている。やることがなかったらここでボンヤリするのも悪くない。泳いでいる人もちらほら見掛けた。そして映画祭開催期間中は、毎日日が暮れる21:30から復元作品や未公開作品などが上映される。プログラムは公式サイトにもあるが、ビーチ入り口手前にプログラムが書かれた看板が立っている。

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    今回日程の都合上、セルジオ・レオーネ『続・夕陽のガンマン』しか観れず、その日はただ上映だけだった(しかし、カンヌの涼しい夜に野外スクリーンで爆音で観るセルジオ・レオーネは最高だった)。上映はもちろん無料。座席はおそらく300席くらいあって、先着順で並んで、入場の際にはブランケットの貸し出しもあった。混雑度としてはどうなのだろう、今回は上映開始30分前に行ってもぜんぜん座れたけれど、上映作品によってははやめに並ぶが吉だろう。万が一はいれなくても、じつは座席の置いてある隣の浜辺のスペースからもスクリーンが観れるので、鑑賞可能ではあるのだが。

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    ちなみに、ほかの日にはゲストの登壇もあった模様だ。たとえばある夜はジェラール・ドパルデューが挨拶に来たらしいし、『パルプ・フィクション』には、タランティーノ、ウマ・サーマン、ジョン・トラボルタの3名が駆けつけたそう。このサイトにその日の様子を収めた動画があがってた。

    しかしこの”How many people have ever watched ‘Pulp Fiction’?”というタランティーノが問いかけた台詞、昨年参加したリヨンのリュミエール映画祭のパルプ・フィクション上映のときもまったく同じこと聞いてたなあ。リュミエール映画祭とは打って変わって、ほとんど手が上がっていないのはみんな本当に観ていないということなのか(笑)。

    ほかにも、早めに応募すれば一般でも観れる並行部門はあるようだが、僕が仕組みを知っている限りではとりあえずここまで。もしどういう感じなのかご存知の方がいればぜひコメントを寄せてくださると幸いです。もっと情報をシェアしてゆきましょう。

    ちなみに、カンヌ映画祭で上映される全映画は、言語はフランス語と英語に対応している。英仏が映画内の言語ではない場合、その2言語の字幕がつくということである。プログラムなどもすべて2言語併記。なのでフランス語ができない場合でも、映画祭を楽しむことはできるだろう。

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    日中、クロワゼット通りをぶらぶらと歩いていたら、選出されていた『エクペンダブルズ3』の豪華出演俳優たちが戦車に乗って隣を通りすぎた。ハリソン・フォード、シルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガーなどを至近距離でばっちり目視した。人だかりはできていたが、カンヌの町ではこういうファンサービスみたいなのもあれば、街中でたまたまスターとすれ違うこともあるだろう。誰なのかわからなかったが、普通に中心街を歩いていたらパパラッチに囲まれた美男美女な俳優陣もすぐ前を過ぎ去ったこともあった。

    夜には一転、クラブやバーはスーツやドレスを着こなした大人たちの社交場になる。昼間はTシャツ半パンにサンダルなんてラフな格好をしていたくせに、夜になるとエレガントに決めている侮れないヤツらである。リュックを背負って昼間のまま普通の格好をして夜のカンヌを彷徨っていた僕らは、ひとつクラブへの入場を断られた。まあ、僕なんて両手に晩の食糧用でフランスパンを持っていたしな。なので日が暮れてからもカンヌを楽しみたいみなさんは、多少フォーマルな格好の準備もオススメします。もしかしたら何某かの出会いがあるかもしれない。

    ちなみに「サバイバルマニュアル」という名を冠した所以は、僕は一緒に赴いた友人たちとビーチで野宿をしたからである。というのも、カンヌをはじめとする近郊の町のホテルは、映画祭期間中はかなり埋まっている上に、値段が高くなっているからだ。もしホテルで眠りたければ、早めの予約が必要となる。僕たちがカンヌ行きを決めたのは直前だったので、ビーチで寝る作戦を決行。

    ビーチ付近は一般に少し治安が悪そうな雰囲気(ワルそうな兄ちゃんが浜辺沿いの通りを屯しているのを見かけた)なのでもちろん注意は必要だが、僕たちのほかに寝袋セットなどを持ってビーチで寝ている人は何人かいた。ビーチの中心に風呂敷を広げて川の字で寝ていたら、朝方の5時くらいにビーチ清掃のトラックのおじさん君たち起きて〜!潰したくないから!」と叩き起こされ端っこに移動したのを除けば、そこまで寒くもなく(もちろん上着を着込んで、ブランケットをかぶって)それなりに快適だった。いやあ、若さっていいですね。

    僕は爆睡中だったが、友人たちは朝目覚め、海でひと泳ぎした模様。ビーチに無料のシャワーも設置されているので、なかなか悪くない朝である。夜の過ごし方として、朝までクラブなどで遊んでから、暖かくなったビーチで午前中寝るなどということも考えられる。さすがに何日もそうして過ごすのは辛いので、万が一のサバイバル策もあるよという経験談を共有したまでで、オススメはできない。

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    夜の無人のレッドカーペット。またいつか足を再び運べればいいなあ。


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