ロンドンまで、The High Llamasを聴きに

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Northern Lineに乗り込んで、Angelという駅で降りる。太陽はすでに傾いていて、道沿いに律儀に並ぶ煉瓦造りの建築群を控えめに照らしている。5月のロンドンは、まだ寒い。もうすこし暖かいと思っていたんだけどな、と内心呟きつつ上着を着込んで、高揚した気持ちを抑えきれず、いつもより早足で目的地へ向った。The Islington、The High Llamasの音楽を聴きに。

ロンドンに赴くことを決めたのは、まずはThe High Llamasのライブがひらかれると知ったからだ。数年前に彼らの存在を知って以来、ここ数年でいちばん聴き込んだアーティストだと思う。The Beach Boysも、Harpers Bizarreもちゃんと聴いたのはハイ・ラマズから、という一般の音楽リスナーにとってはへんな道筋を辿ってる。音楽的語彙に乏しいのでうまく言えないのが悔やまれるところですが、ストリングスやホーンセクション、シロフォンなどをも用いたアコースティック編成で織り成される豊穣でポップな音の重なり、なのにどこか少年期の憂愁みたいな浮ついた感情を同時に想起させるような彼らの音楽は、僕のなかでさまざまな景色とすでに結びついている。胸をはって好きだと言えるものは僕の人生のなかでいったいいくつあるのかしらんという感じだけれど、少なくともハイラマズに関しては胸をはって何度でも言いたい。

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いくつかのフェスティバルとリーダーのショーン・オヘイガンのソロライブを除けば、きちんとしたライブは2011年の来日公演以来だそうだ。当時高校生だった僕は、数年後こんなにも愛すことになるグループの存在すら知らなかったから、こうしていまヨーロッパにいる僕にとっては、はじめてライブを聴くまたとない機会だった。幸いにも5月の頭は大学は休暇中だった。ハイ・ラマズのチケットを予約すると同時に、すぐさまロンドン行きの飛行機のチケットを予約した。マルセイユからロンドンへ。たった二時間あまりのフライト。

そうして降り立ったロンドン、わずかばかりのロンドンの滞在。街を歩き、じっさいに目の当たりにしたひとやものや景色たちが、もともと抱いていたイギリスに対するぼんやりとしたイメージや知識とつながってゆく。そうして点と点たちがつながってゆき、それらが次第に頭の中で奥行きのある立体的な姿をかたちどってゆくさまはとても喜ばしい感覚だった。余りに整理されすぎている煉瓦の町並み、イギリス訛りの英語、ケン・ローチの映画、1パイントのビール、学校の授業で習ったきりの朧げな英国の歴史、Banksyのアート作品、イギリスの町角に行き交うひとびと、そしてハイ・ラマズの音楽。その断片がひとつにまとまって、なにかをわかったような気がした。もちろん、わかった気になっているに過ぎないにちがいないけれど、すべてを解ることなど到底できないのだから、何かを了解したと信じ込む瞬間は価値のあるものだと僕は思う。

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The Islington、僕が到着したときにはすでに、50人も入らないちいさな箱のなかに、こぎれいな格好をした紳士淑女が集いはじめていた。一瞬まごついてしまうほどの値段で1パイントのビールを買う。酒が回ったからか、そもそも高揚していたからかわからないのだけど、気分がよくなって写真を何枚か撮った。気の抜けた朗らかさがあって、わりと自分でも気に入っている。

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そうして演奏が始まった。アルバム”Talahomi Way”より1曲目”Berry Adams”。演奏前の僕のあまりに期待をしすぎていないかとの不安は、すぐに杞憂に終わった。演奏のあいま、「すてきな夜だね」とショーン・オヘイガンは繰り返す。紛れもなくすてきな夜だった。もうセトリはあまり憶えていないんですが、”Talohomy Way”に収録されている曲を中心に、”Snowbug”から”Cookie Bay””Triads”など。そうして最後のアンコールで演奏した”Can Cladders”の”Rollin”にぐっときた。”We say hi to the rivers and the mountains”と繰り返す力強いアンサンブルに、底抜けの感動を覚えてしまう。すばらしい。すばらしい、としかいえない。

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演奏が終わって、ちいさな箱に降りてきたメンバーのみなさんとそれぞれ話した。「日本人は僕らの鳴らしているようなポップに対する音楽的理解があって、日本は大好きだ」。新作について訊いてみると、「ここのところずっと新しいレコードの制作に取り組んでいるが、もう一生終わらないのではないかというくらい難航してる。リリースの目処が立ち次第、また日本公演を組んでゆくよ」と答えてくれた。いつになるかわからないけど、いつの日かまた新しい音楽がリリースされる同時代性は嬉しいものだ。「せっかくだから」とメンバーのひとりに唆されて、なんだかんだメンバー全員からレコードにサインをもらってしまった。

空港へと向う復路で、ロンドンの代名詞のひとつでもある赤色の2階建てのバスにひとり乗り込み、おもむろにプラスチックのイヤホンを耳に差し込んで、ハイラマズの音楽を聴いた。車窓を横切る光景を目に捉えながら聴く彼らの音楽のなかに、何度も聴き込んでいるはずなのに、また新しい音が鳴っていることを発見する。いつしかまたどこかで、ロンドンで、あるいはまたべつの場所で、新しい音を発見することができたらいいなあと思う。


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