日記

非匿名的な死を前にして立ち竦むわずかばかりの時間について

非匿名的な死を前にして立ち竦むわずかばかりの時間について

彼女とはとりたてて親しい間柄というわけではまったくなかった。彼女の存在が僕の生にたいして、何らかの特別な意味を与えてきたことは、これまで一度もなかったように思う。だが皮肉なことに、突如として訪れ、思わぬかたちで僕のもとに通達された彼女の〈死〉が―――ほかの十三の死でもなく、あるいは匿名的な死でもなく―――僕に向かって、何かを呈示せんと主張しているように思えてならないのだ。僕は彼女を知っていた。彼女も僕を知っていた。たったその程度の脆弱な関係性が欠けてしまっただけなのに、彼女の死を前にして、僕は戦慄させられ、動揺させられてしまっている。 それはおそらく彼女の死がある象徴的な語られ方をしているから…

雑記( October, 2015 )

雑記( October, 2015 )

十月。 いよいよTシャツで過ごすのが困難になり、冬物のコートをどうしようかと考える時季になった。十月も終わりに差し掛かると冬の到来をひしひしと感じる。風呂場から出たときの寒いこと寒いこと。そして、ベランダに設置された椅子に腰掛け、煙草をふかしながら読書をするという僕にとっての最高の時間が、気温の低下にともなって失われつつあることに危惧している。じつは日本で冬を迎えるのは三年ぶりになるので(しかも過去の二年は南仏とアフリカにいたので、寒さ耐性をほぼ失っている)、どうなることやらといまから心配だ。なにごともなく生き延びれるといいけれど。はやくコートを買おう。   十月から友人たちがのさば…

雑記 ( September, 2015 )

雑記 ( September, 2015 )

  九月のある日、僕は福岡市にある銭湯のサウナで、テレビのニュースが流すルポルタージュに釘付けになっていた。延々とつづく水害の被災地の映像。激しい水に呑まれ、車が、家が流されてゆく光景に、4年半前のあのときの光景がオーバーラップしはじめ、僕のもとに眩暈のようなものが襲ってくる。家が流されてしまったというひとりの老人が、取材にきた記者の質問に淡々と答えている。「自然の力だからね、仕方ないよ」。毎日の生活の基盤たる家が流され、丁寧に手をかけつづけてきた田んぼが荒され、見慣れた町の光景が消えてなくなる。彼がつみかさねてきた暮らしというものが、一瞬にして壊されてしまったのに、彼の口から出たこ…

雑記( August, 2015 )

雑記( August, 2015 )

二年ぶりに東京で迎えた夏は、早くも終りつつある。すでに秋の風が吹いている(どちらかというと台風の風というほうがふさわしいかもしれない)。八月の頭の連日のうだるような暑さにはほんとうに辟易とし、そのなかをゆくリクルートスーツに身を包んだ就活生を見るたびに戦慄していたのだが、いざその夏が終わりかけてみるとやはりどこかに一抹の寂寥が残る。先日の呑みの席で先輩から「春夏秋冬のうち、夏だけが終わる」と言われて膝を叩きまくったのだが、はたして夏というのはいったい何なのだろうか。考えてみると、ほかの季節に比べても、夏を代理表象するかのようなものごとはこの世にあふれている。花火、浴衣、海、プール、BBQ……あ…

奈義町現代美術館、快と不快のあいだで

奈義町現代美術館、快と不快のあいだで

何気なく雑誌のページをぱらぱらと繰っていたら、岡山県奈義町に現代美術館があるということを知った。奈義町は、毎夏帰省している田舎から車を10分も走らせれば着いてしまうちいさな隣町で、親戚も住んでいるため何度か訪れたことがある(国道53号線!)。それにもかかわらず、そのページにたまたま目を落とすまでは、そんな近場に高名な現代美術館があるとは思いも寄らなかったのだ。灯台下暗しというやつである。 今夏もちょうどいま2年ぶりに帰省しているので、母と親戚の挨拶がてら現代美術館をめざし奈義町へ向かった。奈義町には自衛隊の日本原駐屯地があり、道程、大きな駐屯地の門構えのむこうに空軍のヘリコプターが見えて少々興…

記録 ( April, 2015 )

記録 ( April, 2015 )

4月。フランス、ブルキナファソと経て、ひさしぶりに日本に帰ってきた。また東京というこの地でふたたび日常を取り戻さなければいけない。なんだかすこし憂鬱な気分が混ざりつつ、それをもみ消そうかとするように芸術作品に触れたりする。阪神タイガースの試合を観戦するほうが大抵の場合たのしいのだが、いかんせん阪神は不調なのでにっちもさっちもいかない。いつ飽きるか不明だけれど(もしかするとこの一回きりかもしれないが)、飽きるまでは毎月ふれた作品を記録してみようかと思う。Tumblrでは2013年9月から記録をつけ続けているのだが、蓄積されたデータを見返すだけでハッピーになれる。ぼくはわりかしこういうことに充足感…

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