日記

1年間の海外留学を終えて——フランスで諸諸と出合ったことについて

1年間の海外留学を終えて——フランスで諸諸と出合ったことについて

かつての僕はなにを思っていただろうと思いを巡らすとき、ブログというメディアがあるのは非常に便利だ。日記もつけているので、もちろんそちらも参照することは多々あるのだが、ブログの記事という形である程度まとまった思考にいつでも立ち返ることができるのは間違いなくブログのひとつのすぐれた点と言っていいだろう。読み返しながらその内容に恥ずかしくなって死にたくなることがほとんどだが(ほんの一日前に投稿したそれに対してもしばしば起こる)、たまにだけれど意外といいこと書いているじゃないかと自身で驚くこともある。そういう思考の軌跡がひとつの人目に曝されている場所にログとして残っていってしまうというのは残酷な話では…

ブルキナ日記 #03|月明かりに照らされて

ブルキナ日記 #03|月明かりに照らされて

いつものキオスクで、たわいもない話をしていると、急に停電が起こった。べつに珍しいことではない。停電なんてもはや日常茶飯事だ。いつもと同じように、街灯や建物の電灯たちはほんのすこしの間隔を空けながら次々と消えてゆく。僕たちは口々に「ああ、またか」と呟く。 少しして街じゅうが暗くなったであろうと思われたころ、僕は背中のほうから青白い光が差していることに気づいて、思わず振り返った。ひとつだけ電灯の光が停電を免れたのか、まさかそんなはずはという思考が一瞬頭をよぎるも、すぐにそれが間違っていたことを発見する。 満月だった。すこしも欠けていない真ん丸の満月が、燦々と照っている。月の光はこれほどまで明るいも…

ブルキナ日記 #02|チョコレート・アンド・コーヒー・アンド・シガレッツ

ブルキナ日記 #02|チョコレート・アンド・コーヒー・アンド・シガレッツ

3枚入りの板チョコを買った。近所にあるちいさな商店で冷蔵庫のなかに見窄らしく隅に追いやられているチョコレートの包みを視界の端に捉えて、そういえばチョコレートなんて贅沢品をこの国に来てからまだ一度も口にしていないなと半ば衝動で手に取った。レジに持っていくとテレビから目を離そうとしない店員に1000フラン(およそ200円)と怠そうに言われて一瞬購入を躊躇うが、そのまま衝動に身を任せて買ってしまった。日本でも板チョコ3枚って同等の200円くらいで買えてしまうよなあと、ずっと長い間放置されていただろう薄汚れたパッケージに納得する。たとえばブルキナファソの隣国のガーナは日本でも「ガーナチョコレート」の名…

美を欲望するということ。Marguerite Kelsey、5月、倫敦

美を欲望するということ。Marguerite Kelsey、5月、倫敦

「この絵を僕のものにしたい」とはじめて切望したのは、ロンドンのテート・モダンでMeredith Framptonによる“Marguerite Kelsey” (1928)のポートレイトを目にしたときだった。閉館まであまり時間がない中、美術館の膨大なコレクションをなるたけ多く目にしてやろうという魂胆でわりかし急ぎ足で館内を回っていたのだが、この絵を視た瞬間に足が止まった。それからしばらく、この絵から——あるいは、この絵に描かれたMarguerite Kelseyから——目が離せなくなってしまったのである。 いまでもこの絵をこうして見るたびに美しいと思わずため息を吐いてしまうのだが、なぜとりわけこ…

(一般人のための)カンヌ映画祭サバイバルマニュアル

(一般人のための)カンヌ映画祭サバイバルマニュアル

67回カンヌ国際映画祭、一般人だけれどフラリと行ってきた。せっかくカンヌのちかくに住んでいるので、世界一の映画祭に行かないわけがないと思っていたものの、直前まであまり調べずにいたところ「果たして(お金のない)一般人でも参加可能なのかしら」「招待されるようなニンゲンじゃないとまったく映画見れないんじゃないの」という疑問も渦巻く次第。というか、そう思っているひとがフランス人でも非常に多い。 結論から言えば、”Oui et Non” (Yes and No)。詳しいカンヌ映画祭の説明に関しては、丁寧に説明している記事(『カンヌ国際映画祭開幕。「カンヌ」とはいったい何なのか』)…

雨が降り頻る八月のパリで

雨が降り頻る八月のパリで

これほど雨が降り続けていた8月のパリも珍しいのではないかと思う。多くのパリジャンはバカンスに旅立ち、代わりに観光客で溢れかえっている。不幸ながらにして残ることになったパリジャンは、その寒さのあまり秋冬用のコートを押し入れの奥から取り出して、嬉々としてパリを訪れている観光客たちも同様にブティックでセーターなどを買っているようだ。そんな8月のパリに、僕は観光客としてでもなく、かといってパリジャンでもなく、ほんのつかの間の滞在者としてフランス生活最後の1ヶ月を締めくろうとしていた。 とくになにもしなかった1ヶ月だった。凱旋門にもエッフェル塔にもモンパルナスタワーにも登っていないし、ノードルダム大聖堂…

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